なぜダンケルク?

きのう一日のうちに、フランスの格差社会に材を採った映画を二本観た。たまたまだけど。
ひとつは数年ぶりに行ったレンタル・ショップで借りた『最強のふたり』原題 : UNTOUCHABLE : 仏語だと INTOUCHABLES 。(『Breaking Bad』を借りに行って、相方が「これも〜」と。その他アルゴやパイも。レンタル屋、久しぶりで楽しい〜。)
もうひとつはWOWOWで観た『フランス 幸せのメソッド』。

最強のふたり』は久しぶりに笑いすぎてくたびれちゃうほど。グッときた。実話を元にした良作。大金持ちの重度身体障害者フィリップを失業中の黒人青年ドリスが介護することになる。ドリスはフィリップに本音で付き合う。首の付け根から下が麻痺しているフィリップに、アブナイ身障者ネタ・ギャグを平然と飛ばしまくったり、フィリップの麻痺した四肢に熱いお茶をかけて「感じないなんてすごい、信じられない」なんてやっている。周囲の心配をよそに、フィリップはそんなドリスに好意を感じる。今までの身の回りの人々の態度、身障者である自分に遠慮した、距離感のある浅い態度とは違うものを感じ取ったのだ。人類愛・同胞意識に基づいた、じわじわと心が震えるようなドリスとのコミュニケーションで、フィリップは精神的に再生して行く。友だちが出来たのだ。
またフィリップはドリスに対して、自然でスマートで嫌味のない情操教育を行っていく。ワケあり家庭で貧困生活を送りながらも、機転とユーモアで逆境を切り抜けて生きて来たドリスのしなやかな心は、フィリップの与える絵画や音楽の体験を喜びとともに吸収していく。そして他者を思いやる心とともに独立し、ドリスもまた人生を変えて行く。
「『今までで最高の映画体験のひとつ』と観た人に言わせてみせるぞ」「自分たちは素晴らしい作品をつくっている。これでいい、間違っていない」という製作陣の気概と自負が、画面から伝わってくるようだった。
それにしてもオペラ観劇シーンは最高でした。自分はいつもオペラには違和感があって、共感した。笑いすぎて腹痛いよ。


もう一本の方、『フランス 幸せのメソッド』。解説にはハート・ウォーミングなラブコメとあったが、ラストが衝撃、これプロテスト作品でした。甘くない。あえてあの終わり方にしたんだろう。えー!って感じ。
金融トレーダーの勝ち組ヤリチン男のところで家政婦をすることになった主人公の子持ちの女性、彼女の名はフランス。女手ひとつで子育て中(三人だったかな)。金融男とは階層格差ゆえいろいろあったけど、時間経過とともに心を通わせ合い、さらにその男の幼い息子の世話もすることに。そのうち互いに惹かれ合い、ロンドン旅行中にわりない仲に。情事の翌朝、ピロートーク的に男が語るには、フランスが失業するきっかけになった、ある工場(会社)の倒産、「あの工場を株の空売りでぶっ潰したのは俺だぜ! 奇遇だなあ!」。嬉しそうに「いやあ、世間はせまいな」なんて夢中で喋る男。まるで武勇伝、自慢話。というか、金融の話、仕事の話をするのが楽しくて仕方がない金融オタクなのだ。彼女の失業、彼女の仲間の労働者たちの失業なんてまったく思考に入っていないし、失業が人間にとってどれほど大きな影響を与えるヘヴィなことなのか、考える必要のまったくない人間だったのだ。「怒っても無駄よ。彼には私たちが見えていないの」彼女は娘に泣きながら話します。彼には人間が数字やお金に見えているのだろうか。


二つの作品ともフランス北端のベルギーとの国境近くの街、ダンケルクが重要な場所として登場する。ダンケルク、歴史上のことだけではなく、現在のフランス社会を何らか象徴する街なのだろう。工業地帯か。パリからすごく離れてるわけではない。

最近、フランスに興味がある。パリだけでなく地方も含めて回って観たい。
現在はフランス在住の作曲家・シンセ・プログラマー 生方ノリタカさん@ubieman の Tweet によれば90年代に行ったときと、2007年に行ったときだと、もう印象が全然ちがったと。英語が通じる場所が増えてるし、ツーリストのフランス語発音の悪さに対する嫌味な態度が減少していたという。